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国産小麦の市場概要。増える品種、背後に潜む課題とは

今年も、秋播き小麦の収穫シーズンとなり、各地では金色の麦畑の風景が見られました。2021年は、例年に比べて梅雨入りが2~3週間も早かった地方もあるようですが、麦農家の間で、穂発芽などの作物障害を懸念する声がちらほら。小麦は、地域によって栽培品種が異なり、さらにはパン用、麺用、製菓用…、薄力・中力・強力と、細かく種類が枝分かれしています。最近では、ラー麦(ラーメン用)やピザ用小麦もあるのだとか。

種類の詳細はさておき、大学で小麦について研究していた筆者が、ざっくりと小麦(とくに国産 / 内麦)の市場概要について解説していきます。

目次

日本における小麦の消費量の推移

初めに、日本における小麦の消費量の推移を見ていきましょう。

小麦の1人当たりの年間消費量は、高度経済成長期を境に着実に増加し、1967年に最初のピーク31.6kg/人・年を迎えました。以降は、31~33kg/人・年の間を安定的に推移しています(図1)。年間の小麦国内消費仕向量の合計は、2017年のピーク以降、6500千 t(外国産も含む)程度を推移しています。現時点では人口の減少に伴う、消費量の目立った減少はまだあまり見られませんが、徐々に減っていくことも予想されます。

国産小麦の使用量を用途別にみると、日本麺で使用割合が約60%と最も多く、次いで菓子用、家庭用が多くなっています(図2)。
コロナ禍で家庭用が増えたのでは?と考えられるかもしれませんが、家庭用は全体を見ても使用割合が約3%。「お家でお菓子作り」が増えたとしても、そもそもの使用割合やお菓子作り1回の使用量が少ないため、市場に変化をもたらす程ではないそうです。

中力系小麦と強力系小麦別に検査数量の推移をみると、強力系小麦の検査数量がこの10年間で約150%増加しています(図3)。パン用や中華麺用に主に使用される強力系小麦が国産小麦の約2割を占め、時代とともに小麦の用途は変化していることが予想されます。
※タンパク含有量が多い順に、強力粉、中力粉、薄力粉です。

新品種で国産小麦の品質向上を目指す

ASWとは通称「オーストラリアン・スタンダード・ホワイト」の略で主に、うどん用に使用される外国産小麦です。ASWはオーストラリア産小麦の生産量の約4%を占める程度の、西豪州で収穫される、日本向け専用の小麦銘柄です。残念ながら日本の気候ではASWは栽培できないとのこと。

表を見ても分かるように、小麦の一大産地である北海道だけでなく、関東、東海でも品質面はASWと遜色ない、あるいは高評価を得られるようになりました(表1)。上位5品種にはランクインしませんでしたが、北海道に次ぐ小麦の産地、九州産の小麦も高い評価を得ています。

その背景の一つには、各都道府県で、小麦の品種転換が進められたことにあります。その土地の気候に適した高品質・多収の品種が生まれ、各地で品種転換が進展しました。

国産小麦の作付面積や生産量

作付面積を都道府県別にみると、上位3エリアは、北海道で12万2,200ha、福岡県で1万4,700ha、佐賀県で1万600ha(図4)の規模になっています。令和2年度合計の作付面積合計は21万2,600haで、前年に比べて労働力不足による面積減少はあるものの、北海道や九州を中心に、他の作物から転換する農家さんも多くいたようです。

また、直近令和2年度の小麦の収穫量を見ると、94万9,300 t で、10a当たりの収量は447kg(表2)。平均以上ではあるものの、天候に恵まれた前年の作柄の方が良い結果になっています。作付面積は微増しているものの、収穫量に不安定さが残るのは、国産小麦の長きに渡る課題です。

主要産地毎の国産小麦のサプライチェーン

国産小麦は民間流通制度の導入を受け、流通構造(サプライチェーン)には農協を経て製粉業者に届くパターンと、農家さんから直接製粉業者に持っていくパターンがあります(図5)。製粉業者に持ち込んだ自社の小麦は、他社の小麦とブレンドされて「産地銘柄」がつき、流通に乗ることが一般的です。

業者によって異なりますが、製粉にはある程度のロットが必要になり、自社生産100%の小麦粉を自社ブランドで販売することは、中々辿り着けない販売方法です。

主要産地「北海道」「九州」「関東」それぞれでみても、流通構造の形成状況には特徴があります。北海道では、地元の中小製粉企業が道内で仕入れた小麦を製粉しますが、販路は道外のウェイトも多くなっています。

九州産小麦は、約7割が九州内で製粉され、九州内の中小2次加工メーカーによって使用されます。

関東では、多くが関東内で製粉され、大手製粉企業を中心に外国産小麦とブレンドして大手2次加工メーカーに使用されます。一方、関東の中小2次加工メーカーは、大手との差別化を図るために、中小製粉企業から積極的に地元産の小麦を仕入れています。

いずれにしても、産地とそれぞれの地元の中小製粉企業は相互に依存していると言えるのではないでしょうか。

国産麦の民間流通とは

国産麦の流通は、平成19年4月1日に、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」の一部改正があり、政府買入は制度としてなくなったため、全量民間流通となりました。民間流通とは、政府を経由することなく、農家さんと製粉企業等の実需者が売買契約をして流通させる取引方法です。その契約時期は、産地銘柄毎の播種前契約が基本になっており、収穫の前年に契約を結びます。

国産小麦の需要拡大に向けた課題

民間流通に移行後、当初は国産小麦に対する需要を供給が上回っていましたが、2016年以降は需要が供給を上回る状態に。こうしたミスマッチの他に、各産地で、品種転換がスムーズに進まなかったり、品種ごとの作付け面積が安定しなかったり等、生産現場では様々な課題が生まれています。

また、品種が増えすぎて、既存品種の未整備やばらつき、品質低下もしばしば問題視されています。

こうした問題が起きる理由の一つは、メーカー側がもつ、消費者ニーズやメーカーニーズのような情報が農家さんまで届かないためと言われています。メーカーと農家さんの間には製粉企業がいますが、なかなか十分な情報伝達ができていない状況です。

国産小麦はほとんどが農協出荷のため、農家さんとメーカーが接点をもつ機会が少ないですが、両者が互いに歩み寄って、コミュニケーションをとることができれば良いのではないかと考えています。地産地消的な製品を開発するメーカーと農家さんが互いに距離を縮めることは、国産小麦の安定生産・品質安定、さらには需要拡大に近づく一歩ではないでしょうか。

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