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世界農業遺産っていったい何?

「世界農業遺産」という言葉、みなさまご存知でしょうか?実は先日、世界農業遺産の登録に向けて、日本政府が3つの農業地域を候補地として推薦したというニュースがありました。この記事では、世界農業遺産とはそもそもどういうものなのか、そこに認定されることにどんな意味があるのかなどを、踏み込んで解説していきます。

目次

世界農業遺産とは

世界農業遺産は、世界的に重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を、国際連合食糧農業機関(FAO)が認定する制度です。
引用:農林水産省HP「世界農業遺産とは」
2002年に国際連合食糧農業機関(FAO)が創設した制度で、世界の伝統的な農業文化を認知し、適切な保全や管理によって持続可能な形で後世へと受け継いでいくことを盛り込んでいます。ここでいう「農林水産業システム」とは、何世代にもわたって受け継がれてきた独自の農林水産業の手法や、そこに関わる人が作り上げてきた文化や景観が密接に関連し、世界的に見ても重要なものを指します。令和2年6月現在、日本国内の地域を含めて、22ヶ国の62地域が世界農業遺産に登録されています。
出典:世界農業遺産パンフレット(農林水産省発行)
出典:農林水産省HP「世界農業遺産とは」

今年候補地になった3地域とは

冒頭でも述べましたが、この度3つの地域が世界農業遺産候補地となりました。ここでは3つの地域について解説していきます。

①山形県最上川流域「最上川流域の紅花システム~歴史と伝統がつなぐ山形の『最上紅花』」
☆ポイント☆
最上川流域では、室町時代から約450年もの間、染料用の紅花の生産と、「紅餅」と呼ばれる染色用素材への加工技術が絶えることなく受け継がれてきました。現在、紅花は世界的に油料用の生産が大半を占めており、この農業システムは日本で唯一、世界的にも稀有なものであることが評価されました。

②島根県奥出雲地域「たたら製鉄が生んだ奥出雲の資源循環型農業」
☆ポイント☆
奥出雲地域では、山を切り崩して砂鉄を採取し、日本古来の製鉄法「たたら製鉄」を営み続けるなかで、鉱山跡地を放置することなく棚田へ転用し、採掘のために引いた水路を農業用に再利用してきました。また、牛糞を生かした土での米作りや、出雲そばのルーツとなるそば栽培など、独自の農業形態が育まれてきたことが評価されました。

③埼玉県武蔵野地域「大都市近郊に今も息づく武蔵野の落ち葉堆肥農法」
☆ポイント☆
武蔵野地域は火山灰で覆われており、水資源にも恵まれず、農業をするには厳しい条件でした。そこで、江戸時代に植林をし、落ち葉を集めて堆肥にすることで土壌を改良しました。この計画的なシステムは現在も受け継がれ、豊かな生態系と安定的な生産を支えている点が評価されました。

以上3地域が今年秋にFAOに申請され、書類審査や現地調査を踏まえて登録するか否かが決まる予定です。
出典:農林水産省HP「世界農業遺産・日本農業遺産認定地域」

世界農業遺産の認定基準

世界農業遺産に認定されるためには、以下の5つの基準を満たしている必要があります。

  1. 食料及び生計の保障:地域の人々の生計を支え、経済を豊かにしていること
  2. 農業生物多様性:農業にとって重要な生物多様性(固有種や希少種)が豊富であること
  3. 地域の伝統的な知識システム:伝統的な知識や独創的な技術、天然資源の管理システムを維持していること
  4. 文化、価値観及び社会組織:農業に紐付いて地域特有の文化があり、資源管理や食糧生産に関連する社会組織があること
  5. ランドスケープ及びシースケープの特徴:長きにわたって人間と自然の相互作用によって発展・安定し、緩やかに進化してきた景観を代表するものであること

出典:農林水産省HP「世界農業遺産に関するFAOの動向」

まだまだある!日本の認定地域

令和2年6月現在、日本にある世界農業遺産の数は11です。ここでは、各農業遺産の特徴を解説していきます。

①新潟県佐渡市「トキと共生する佐渡の里山」
☆ポイント☆
佐渡島全体で、トキとの共生や水田で「生きものを育む農法」に取り組み、豊かな生態系づくりに取り組んでいます。また、ブランド米の売上の一部をトキの保全活動に活用し、食と生きもののつながりを大切にしている場所です。

②石川県能登地域「能登の里山里海」
☆ポイント☆
能登地域は、傾斜地では棚田、海沿いでは潮風から家を守る間垣などを始めとする日本の原風景が色濃く残る景観を有しています。また、日本唯一の技術である「揚げ浜式」の製塩法や海女漁、農業にまつわる祭礼がいくつも存在するなど、農林水産業と文化が密接に関わっています。

③静岡県掛川周辺地域「静岡の茶草場農法」
☆ポイント☆
掛川周辺地域では「茶草場農法」と呼ばれる伝統的な方法での茶栽培が盛んです。茶畑の周囲の茶草場の草を刈り、寒い季節に茶畑に敷くことで生育が良くなり、良質なお茶ができます。また、茶草を刈り取ることで草地の生態系の維持にもつながっています。

④熊本県阿蘇地域「阿蘇の草原の維持と持続的農業」
☆ポイント☆
阿蘇地域では、人の手によって草原を管理しており、「野焼き」「放牧」「採草」という3つの方法で日本最大級の草原を維持しています。「野焼き」は表面だけを焼き、土中の動植物に影響が及ばないよう配慮しています。また、農業に不向きな火山性土壌だった土地を長い年月をかけて改良し、農業を行っています。

⑤大分県国東半島宇佐地域「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」
☆ポイント☆
国東半島宇佐地域は降水量が少ないため、クヌギ林の涵養を利用し、ため池をつくることによって農業用水を確保して、畳表に使われる七島イの農業を支えています。また、クヌギは約15年で再生するため、森の新陳代謝も良く、里山の景観が保全されています。

⑥岐阜県長良川上中流域「清流長良川の鮎-里川における人と鮎のつながり-」☆ポイント☆
長良川は、周辺住民によって定期的な清掃や涵養林の育成が行われ、農林水産業が保全されています。そして、その美しい川が和紙や染め物などの伝統工芸に良い影響を与えています。また、伝統漁法である鮎の友釣りや鵜飼などが受け継がれ、食文化にも根付いています。

⑦和歌山県みなべ・田辺地域「みなべ・田辺の梅システム」
☆ポイント☆
みなべ・田辺地域は、養分の乏しい土壌の斜面が広がっており、そこにウバメガシと梅を植えて涵養林とし、備長炭や良質な梅の生産をしています。また、ニホンミツバチが生息し、梅の花粉を運ぶ役割を担っています。一方で、ニホンミツバチにとっても梅の花が貴重な蜜源であり、共生関係が保たれています。そして、就業者の7割が梅に関する産業に従事しており、住民の生計を支えています。

⑧宮崎県高千穂郷・椎葉山地域「高千穂郷・椎葉山の山間地農林業複合システム」
☆ポイント☆
森林に囲まれる高千穂郷・椎葉山地域では、木材生産やしいたけ生産が盛んです。また、人々は和牛や茶、稲作など多くの農業を組み合わせることによって暮らしを保ってきました。そして、水路を張りめぐらせ、適切に排水することで地域を災害から守っています。伝統の「神楽」が今も残り、五穀豊穣を願う文化が受け継がれています。

⑨宮城県大崎地域「持続可能な水田農業を支える『大崎耕土』の伝統的水管理システム」
☆ポイント☆
大崎地域は伝統的な稲作地域です。長年、地形が要因の水害や渇水、「やませ」による冷害に悩まされてきました。そこで地域住民は、取水堰や排水施設、ため池などを設置し、組織的に管理してきており、今も受け継がれています。また、厳しい農業条件で生まれた農耕儀礼文化が残るほか、豊かな生態系をつくりだす「居久根」と呼ばれる屋敷林が独特の景観を生み出しています。

⑩静岡県わさび栽培地域「静岡水わさびの伝統栽培-発祥の地が伝える人とわさびの歴史-」
☆ポイント☆
この地域では約400年前にわさびの栽培が始まり、山に沿った階段状のわさび田となっています。肥料をほぼ使わず、湧き水の養分で栽培する技術で生産したわさびは高品質として知られています。また、わさびを日差しから守るヤマハンノキがある景観や、ハコネサンショウウオが棲む水環境が特徴的です。

⑪徳島県にし阿波地域「にし阿波の傾斜地農耕システム」
☆ポイント☆
最大約40度の急傾斜地があるにし阿波地域では、段々畑にすることなく斜面のまま農業を営んでいます。カヤを畑にすき込んで風雨による土壌流出を防ぎ、独自の農機具を使って雑穀や野菜など少量多品目の農作物を生産するシステムです。このシステムが400年以上続いていることで、豊かな生態系や景観、伝統文化が保持されています
出典:世界農業遺産パンフレット(農林水産省発行)

 認定されるメリット

では、世界農業遺産に認定されると、どんな良いことがあるのでしょうか。2地域を例にとり、世界農業遺産に認定された後どんなことが行われているのか見ていきましょう。

①静岡県掛川周辺地域「静岡の茶草場農法」

  • 茶草場の管理面積に応じて生物多様性への貢献度をランク付けする「茶草場農法実践者認定制度」の創設
  • 茶製品への表示や応援用として「ロゴマーク」の作成
  • 補助金制度の創設
  • HPやSNSでの発信
  • 茶園風景を一望できる「粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス」のオープン

②大分県国東半島宇佐地域「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」

  • 子どもたち向けに、世界農業遺産の学習や農業従事者へのインタビューの実施
  • 国内外からの研修、視察の受け入れ
  • 田植え体験やウォーキングイベントなどによる交流
  • 世界農業遺産地域ブランド認証品の選定
  • シンボルマークを活用した世界農業遺産応援商品の拡大

以上の取り組みから、農産物がブランド化されることで付加価値がつき、知名度が上昇し、観光客の誘致への期待も高まります。また、地域への愛着が広がり、新たな担い手の育成や地域外とのつながりから新しいビジネスの創出も可能といえます。
出典:農林水産省HP「世界農業遺産認定地域の認定後の取組状況」
出典:世界農業遺産パンフレット(農林水産省発行)
出典:掛川市HP「かっぽしテラス(粟ヶ岳世界農業遺産茶草場テラス)」

国内版「日本農業遺産」とは

ここまで「世界農業遺産」について解説してきましたが、国内版が存在するのをご存知でしょうか?農林水産省が2016年に制度化した「日本農業遺産」です。
日本農業遺産は、我が国において重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を農林水産大臣が認定する制度です。
引用:農林水産省HP「日本農業遺産とは」
この制度はあくまで世界農業遺産とは別の位置づけであり、認定基準も異なります。ですので、世界農業遺産であっても日本農業遺産ではない地域があれば、その逆も存在しますし、両方に認定されている地域も存在します。日本農業遺産は、平成31年3月現在で15地域が認定されています。

新たに認定された日本農業遺産

先月、7つの地域が日本農業遺産に認定されました。

①富山県氷見地域「氷見の持続可能な定置網漁業」

②兵庫県丹波篠山地域「丹波篠山の黒大豆栽培~ムラが支える優良種子と家族農業」

③兵庫県南あわじ地域「南あわじにおける水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム」

④和歌山県高野・花園・清水地域「聖地高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム」

⑤和歌山県有田地域「みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム」

⑥宮崎県日南市「造船材を産出した飫肥林業と結びつく日南かつお一本釣り漁業」

⑦宮崎県田野・清武地域「宮崎の太陽と風が育む干し野菜と露地畑作の高度利用システム」

出典:農林水産省HP「令和2年度世界農業遺産への認定申請に係る承認及び日本農業遺産の認定を行う地域の決定について」

日本農業遺産の認定基準

日本農業遺産の認定基準は、世界農業遺産の5つの基準に加えて3つの基準があります。

①変化に対する回復力
自然災害の影響を受けても回復できるだけの強靭性を持っているか

②多様な主体の参加
担い手不足のなかで多くの人々が協力し、農林水産業システムを継承していること

③6次産業化の推進
歴史的な価値や生産物、文化や景観を利用して地域を活性化し、システムを保全できていること

3つの基準を見ると、日本ならではの環境や社会的な課題が反映されていることが分かります。大切に受け継がれてきた文化が絶たれないようなシステムを認定することは、他地域の農業システムにとって参考になることもあるでしょう。
出典:農林水産省HP「日本農業遺産とは」
出典:日本農業遺産パンフレット(農林水産省発行)

世界農業遺産まとめ

日本各地に、風土にあった様々な形の農林水産業文化があり、人々はその文化を大切に受け継いできました。しかし、少子高齢化によって担い手の減少が進み、伝統的な文化や手法、景観などを受け継いでいくことが難しくなりつつあります。また、気候変動やTPPの影響で日本の農業の未来が不透明になるなかで、世界農業遺産は重要なものと言えます。農業がなければ、私たちの生活は成り立たなくなります。世界農業遺産の登録が契機となり、受け継いできた技術や文化が守られれば、私たちが口にしている食品も持続可能なものになります。

また、新型コロナウイルスの影響で人々の交流が制限され、観光地の誘致ができず地域経済が動きづらい状況も起きています。認定地域同士で協力し、乗り越えるための策を練るなどの取り組みが求められていくかもしれません。

出典:世界農業遺産パンフレット(農林水産省発行)
出典:農林水産省HP「令和2年度世界農業遺産への認定申請に係る承認及び日本農業遺産の認定に関する申請」
出典:FAO駐日連絡事務所HP

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