[2025年]米の値段は“また”上がるのか?『水不足』の正体と、コメ農家の死闘

2025年、日本の食卓に再び米価高騰の波が押し寄せる強い懸念が広がっています。
その最大の原因は、今まさに「米どころ」を襲っている、記録的な水不足です。これは単なる天候不順ではなく、気候変動という構造的な問題であり、すでに疲弊している生産現場をさらに追い詰めています。
この記事では、なぜ今年も米の価格上昇が現実味を帯びているのか、その背景にある生産現場の過酷な現実と、私たちの食卓を守るために行われている必死の対策を解説します。
あの価格高騰が、今年もまた来るかもしれない

「去年の冬頃から、お米の値段がすごく高くなったよな…」。多くの方の記憶に、スーパーの米売り場で考えこんだ記憶が新しいのではないでしょうか。家計を直撃したあの米価高騰。その悪夢が、2025年、再び現実のものとなろうとしています。
昨年から私たちの食卓を襲った価格高騰は、記録的な猛暑による全国的な不作が原因でした。しかし今、不安の震源地となっているのは、日照りではありません。
それは、音もなく、しかし確実に日本の農業の根幹を蝕む「水不足」です。
テレビのニュースでは連日、ダムの貯水率の低下が報じられています。しかし、その数字の裏で、日本の食料庫である「米どころ」の田んぼが、静かに干上がっている現実をご存知でしょうか。
これは、遠いどこかの話ではありません。私たちが毎日口にするお米が、今年、そして来年以降、当たり前に食卓に並ばなくなるかもしれないという、重大な危機の前兆なのです。
なぜ、これほどまでに危機感が募っているのか。それは、この水不足が、すでに限界寸前で踏ん張っているコメ農家さんの息の根を止めかねない、致命的な一撃になる可能性があるからです。
「値段が上がるなら、農家は儲かるでしょう?」——。
もし、そう思われているとしたら、その認識を、この記事を通して少しだけ変えていただく必要があるかもしれません。
今、生産現場で起きていることは、私たちの想像をはるかに超える、静かで、しかし深刻な闘いなのです。
なぜ危機なのか?「静かな水不足」の恐るべき正体

今年の危機を理解するためには、まず、この「水不足」が、ただ「雨が少ない」という現象ではないことを知る必要があります。
2025年8月現在、米どころである東北地方や北陸信越、近畿中国地方の日本海側では、まるで空に蛇口が付いていて、誰かがそれを固く閉めてしまったかのような状況が続いています。地域によっては、もう1ヶ月以上もまともな雨が降っていません。
日本海側の米どころに共通するのは、「雲は発生するものの、雨が降らない」という特異な現象です。
太平洋高気圧が上昇気流を抑制し、フェーン現象で空気が乾燥することで、雲があっても降雨に結びつかない状況が生まれています。今年は梅雨の時期からこの傾向が続き、稲作の生命線である夏季の水供給を根本から断っているのです。
かつての日本には、四季折々の安定した気候がありました。
梅雨にはしとしとと雨が降り、大地を潤し、夏になれば夕立が暑さを和らげてくれました。この自然のリズムの中で、日本の稲作文化は何百年もの間、育まれてきたのです。しかし、そのリズムは、もはや過去のものとなりつつあります。
現代の気候は、まるでシーソーのように、極端から極端へと大きく揺れ動きます。災害級の豪雨が特定の地域を短時間で襲う一方で、他の地域では、何週間も一滴の雨も降らない日々が続く。
こうした極端な気象の象徴が「線状降水帯」です。
ある地域では短時間に記録的な豪雨が降る一方、別の地域ではまったく雨が降らず、水不足が深刻化します。豪雨によって一見“雨量は足りている”ように見えても、ダムの集水域で雨が降らなければ水資源は確保できません。
つまり今の日本は、「局地的な豪雨」と「広域的な水不足」が同時に起きる矛盾した状況にあるのです。この「降らない」という現実が、稲作にとってどれほど致命的か。稲は、その生育過程で大量の水を必要とする植物だからです。
特に、夏の盛りに穂をつけ、実を太らせる「出穂期(しゅっすいき)」から「登熟期(とうじゅくき)」にかけては、人間で言えば、最も栄養と水分を必要とする大切な時期にあたります。
この最も重要なタイミングで水が断たれることは、稲の生育を止めてしまうことに直結します。
たとえ収穫できたとしても、中身がスカスカで米粒が白く濁ってしまう「乳白米(にゅうはくまい)」や、殻だけで全く実らない「しいな」が多発し、まともな製品として出荷できなくなるのです。
さらに、もう一つの深刻な問題を引き起こします。それは、カメムシの大量発生です。
通常、雨によって卵が流されたり腐ったりして個体数が抑えられるカメムシですが、乾燥した環境ではこれらの卵が生き残り、孵化して成虫が急増します。
特にアカスジカスミカメやミナミアオカメムシなどの種が、稲作地帯で稲の穂や茎に寄生し、汁を吸うことで米粒に黒い斑点がつく「斑点米」が多発。品質が大幅に低下し、1等米から2等米に等級が落ちることで価格差が生まれ、収穫量が大きく減少する可能性もあります。
これにより農家は水不足と害虫の二重苦に直面し、防除のための農薬散布回数が増加するなど、経済的・労力的な負担が重くのしかかっています。
昨年の猛暑による不作で大きな打撃を受けたコメ農家さんにとって、この水不足は、まさに泣きっ面に蜂。再起をかけた今年の米作りが、収穫を前にして水泡に帰すかもしれないという、悪夢のような状況なのです。
そして、この問題の根深さは、来年以降も繰り返される可能性が非常に高い点にあります。
ダムの水が減り、川が干上がるという光景は、米農家さんからすれば、未来の希望そのものが枯渇していく様を見ているのに等しい。この静かなる脅威の正体を理解することが、米問題を自分事として捉えるための第一歩となります。
価格が上がっても笑えない。コメ農家の知られざる苦悩
この危機的な水不足を前に、生産現場ではどのような「対策」が行われているのでしょうか。
そして、なぜ米の価格が上がっても、農家の経営は楽にならないのでしょうか。その知られざる実情に、少しだけ耳を傾けていただきたいと思います。
まず、生産コストの問題があります。この数年、肥料や農薬の価格は、国際情勢の影響もあって、跳ね上がりました。トラクターやコンバインを動かすための燃料代も、高止まりしたままです。
つまり、米の販売価格が多少上がったとしても、それ以上に経費がかさんでしまい、手元に残る利益は依然として変わらない、あるいはほとんどないと言う農家さんも少なくありません。
これに、日本の農業が抱える構造的な問題である「高齢化」と「後継者不足」が重くのしかかります。
若い世代が農業を継がず、70代、80代の農家さんが、老体に鞭打って広大な田んぼを維持しているのが現実です。人手が足りないため、きめ細やかな管理が難しくなり、品質や収量を維持すること自体が年々困難になっています。
そんな満身創痍の状況に、今回の水不足が襲いかかっています。
水がなければ、米は育たない。あまりにも単純で、しかし残酷な現実です。水路の水は減り、ポンプで汲み上げるにも電気代がかかる。そもそも、頼りの川そのものが枯れてしまえば、打つ手はありません。
必死の思いで植えた苗が、目の前で黄色く枯れていくのを見つめるしかない。そんな米農家さんの絶望と無念は、都会で暮らす私たちには、なかなか想像が及ばないかもしれません。
それでも、農家さんは諦めてはいません。最後の最後まで、一粒でも多くの米を食卓に届けようと、懸命な努力を続けているのです。
食卓を守るための死闘。現場の地道な「対策」

報道されることは稀ですが、干上がっていく田んぼを前に、生産現場では一滴の水を守るための必死の対策が続けられています。それは、決して派手なものではなく、地道で、過酷な作業の積み重ねです。
対策1:基本に立ち返る「節水術」の徹底
まず行われているのは、長年の経験に裏打ちされた、基本中の基本である「水の管理」です。
例えば、田んぼの縁を粘土で固め、水漏れをミリ単位で防ぐ「畦塗り(あぜぬり)」。水路から田んぼへ水を引き込む水口(みなくち)の板の隙間を、毎日点検し、補修する。数日おきに水を入れたり抜いたりを繰り返す、稲の健康を保ちつつ、総使用水量を削減する「間断かんがい」という技術の駆使。
これらは全て、膨大な手間と時間を要しますが、今の状況では、この地道な努力なくして稲を守ることはできません。
対策2:土の力を引き出す「土づくり」への回帰
次に、化学肥料だけに頼らず、土そのものが持つ「保水力」を高める取り組みです。
これは、気候変動の時代を生き抜くための、持続可能な農業への挑戦でもあります。具体的には、米を精米した時に出る米ぬかや、収穫後のもみ殻、家畜の糞から作る堆肥といった「有機物」を、秋のうちに田んぼへ鋤き込みます。これらの有機物は、土の中に無数の小さなスポンジのような構造(団粒構造)を作り出します。
このスポンジ状の土は、一度吸収した雨や水をがっちりと保持し、日照りが続いても稲に水分を供給し続ける「天然のダム」の役割を果たしてくれるのです。
対策3:共同体で乗り越える「水利の知恵」
水の問題は、一個人の農家だけでは決して解決できません。
そこで、かつては日本の農村で当たり前だった「水番(みずばん)」といった、水の利用ルールを復活させる動きが広がっています。用水路から水を取る時間や順番を地域で厳密に定め、限られた水を公平に分配するための共同体の知恵です。
自分の田んぼのことだけを考えるのではなく、「お互い様」の精神で水を譲り合う。水位や取水状況を互いに連絡し合い、地域全体で一つのチームとして水を管理していく。
このようなコミュニティの力こそが、この国難を乗り越えるための最後の砦と言えるかもしれません。
こうした草の根の努力を後押しするため、農林水産省は令和7年7月末に「渇水・高温対策本部」を設置。新たな支援事業「水利施設管理強化事業」を通じ、ポンプ調達や番水管理の経費補助を開始しました。
農林水産省は要請に基づく支援体制を整えており、窓口や制度を通じて対応しています。支援は予算や条件に制約がある可能性があります。詳しくは以下のページでご確認ください。

私たちの食卓から、米を消さないために

ここまで、米価再高騰の懸念とその背景にある生産現場の過酷な実情について解説してきました。
この問題は、決して農家だけの問題ではありません。それは、私たちの食卓に、そして日本の食文化そのものに直結する、私たち自身の問題です。
では、この状況に対し、消費者である私たちにできることは何でしょうか。
一つは、この現実を知り、関心を持ち続けることです。
スーパーで米の価格を見て「高いな」で終わらせるのではなく、その背景に生産者の苦労や気候変動という大きな問題があることを、少しだけ想像してみてください。その想像力が、社会を動かす第一歩となります。
二つ目は、意識的に「国産米を選ぶ」ことです。
価格だけで選べば、安価な輸入米に目が行くかもしれません。しかし、私たちが国産米を買い支えることは、この厳しい状況下で奮闘する日本のコメ農家さんを直接応援することに繋がり、ひいては日本の美しい田園風景や水資源、そして食料安全保障を守ることにも繋がるのです。
そして三つ目は、「食品ロスを減らす」ことです。
炊いたご飯を余らせて捨ててしまうことはありませんか?一粒一粒のお米は、農家が命の水を切り詰めながら、懸命に育てた努力の結晶です。その一粒に込められた想いと労力を知り、感謝していただくこと。それもまた、私たちにできる尊い行動の一つです。
2025年の米問題は、日本の農業が、そして私たち消費者一人ひとりが、これからの食との向き合い方を問われる、大きな転換点です。
生産者の皆様のこうした厳しい闘いを、私たちもまた、道具の面から支えたいと強く願っています。私たち農機具販売サイト「ノウキナビ」では、保水力の高い土づくりを助ける耕うん機やトラクターなど、多種多様な農機具を豊富に取り揃え、この国難に立ち向かう全ての生産者の皆様を全力でサポートしてまいります。
この危機を乗り越えた先に、持続可能で豊かな日本の食の未来があると信じて、私たちもまた、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
よくあるご質問(FAQ)
Q1: なぜ今年もまた、お米の値段が上がると心配されているのですか?
A1: 2025年夏に発生している記録的な「水不足」が最大の原因です。
稲の生育に水が不可欠な時期に雨が降らないことで、昨年の猛暑に続く不作が懸念されており、供給不足から再び価格が高騰するのではないかと心配されています。
Q2: 水不足はなぜ起きているのですか?一時的なものではないのですか?
A2: 単なる天候不順ではなく、長期的な「気候変動」が原因と考えられています。
安定した降雨が減り、豪雨と干ばつが極端化しているため、この傾向は今後も続く可能性が高く、一時的な問題とは言えません。
Q3: コメ農家は、価格が上がってもなぜ大変なのですか?
A3: 米の販売価格以上に、肥料、農薬、燃料といった生産に必要なあらゆるコストが高騰しているためです。
さらに、後継者不足と高齢化も深刻で、米作りを続けること自体が非常に困難な状況にあります。
Q4: 消費者として、私たちに何かできることはありますか?
A4: はい、できます。まずこの問題に関心を持つこと、そして国産のお米を意識的に選んで購入することが、日本の農家を直接支えることに繋がります。また、ご飯を炊きすぎず、食品ロスを減らすことも、生産者の努力を無駄にしない大切な行動です。
Q5: ダムの水が少なくなっていることと、お米の値段は関係あるのですか?
A5: 大いに関係あります。多くの田んぼは、川や、その上流にあるダムの水を農業用水として利用しています。
ダムの貯水率が低下するということは、田んぼに供給できる水が減ることを意味し、それは直接的にお米の収穫量減少、ひいては価格の上昇に繋がります。
Q6:「土づくり」で、本当に水不足に効果があるのですか?
A6: はい、非常に重要です。堆肥などの有機物を鋤き込んだ土は、水分を蓄えるスポンジのような構造になります。これにより、雨が降らない時期でも土の中に水分が保たれ、稲が枯れるのを防ぐことができます。これは気候変動の時代に不可欠な、持続可能な農業技術の一つです。